心臓の底の記憶

死ぬまでにあと何曲聴けるのか。

解散したバンドの曲を演奏することの是非

ちょっと前の話。

2016年7月末、猪苗代湖畔で行われたフェス「オハラ☆ブレイク’16夏」のステージで、チバユウスケTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの「GT400」を歌った。それはTwitterでトレンド入りするほど話題にもなった、ちょっとした"事件"だった。なぜなら、チバはこれまでROSSOでも、The Birthdayでも、The Golden Wet Fingersでも、そして今回「GT400」を演奏したユニットMidnight Bankrobbersでも、ミッシェルの曲を歌うことはなかった。アベフトシが亡くなった時も。それが、なぜここにきて急に歌うことになったのか。酒が入っていたからか、ロケーションか、理由なんてないのか、それはチバのみぞ知ることだ。
わずか15秒程度だが公式動画にて音源もアップされている。下記の動画2:52~3:06。その前に確信犯的に中村達也のドラムが入っているのも粋。

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さて、この"事件"を機に、解散したバンドの曲をソロや新バンドで演奏することの是非について考えてみた。これはしばしば音楽ファンの間でも論争になるテーマではないだろうか。

好きなバンドと同じ時代を生き、聴き、体験できるならそれに越したことは無い。でも、必ずしもそれが叶うとは限らない。好きになった時にはもうそのバンドが解散しているなんてことはよくある。私の例だと、ミッシェルはもちろん、BLANKEY JET CITY、THE BLUE HERTSなんかがそうだ。海外のバンドであればThe BeatlesNirvanaなんかがそう。元メンバー達のライブでそのバンドの曲が演奏されたら、喜ぶ人もいれば、哀しむ人もいる。どちらの感情も入り交じった複雑な思いを抱く人もいる。そのバンドへの思い入れやシチュエーションにもよるだろう。

 

では、ミュージシャン側はどうだろうか。過去の曲は絶対に演奏しないミュージシャンと、今でもライブで演奏するミュージシャンの例を挙げて比較してみたい。

 

チバと同じく、解散したバンドの曲を演奏しない、というので真っ先に思いつくのは、ザ・クロマニヨンズ甲本ヒロト真島昌利だ。THE BLUE HERTSとTHE↑HIGH-LOWS↓をふくめ、30年以上一緒にバンドを続けている彼らもまた、昔のバンドの曲を演奏しない。厳密にいうと、客演や知人の結婚祝いで解散したバンドの曲を歌ったことはあったものの、世の中に出回っている情報は片手で数えるほどだ。ある時、THE↑HIGH-LOWS↓のライブで「リンダリンダ歌って~」という客席からの声にヒロトが「うるさい!」と一喝した話はファンの間で有名だ。それから、特にTHE BLUE HERTSの曲は今でもCMやドラマで流れることが多いため、新しいファンも増え続けている。でも、彼らが過去の曲を演奏することは今のところ、ない。一貫して「今、ロックンロールだと思うことを追求する」というスタンスはずっと変わっていないし、それを知ってる多くのファンも、彼らに過去の曲の演奏を求めてはいない。

 

一方、解散後もバンドの曲を演奏するミュージシャンもいる。たとえば、浅井健一BLANKEY JET CITY解散後、ソロやSHERBETSJUDE、PONTIACSなどの様々なバンドを続けてきた。
ベンジーは今でもソロ名義のライブでブランキーの曲を演奏することがあり、なぜ昔の曲を演奏するのか?と聞かれ「やりたいから。やっぱり解散したばっかりは嫌だよ。しばらく経つと、自分も好きだし、いい歌だと思うし。やればいいじゃんって思う。死んだらやれないし。誰も歌わなくなっちゃうし」と答えていた。

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※動画に詳細は記載されていないが、前半の発言は2006/10/16「CX0153 FACTORY 0916」かと。

ちなみに、ベンジーはこの時、ヒロトのことにも言及している。「あの人だって「リンダリンダ」とか歌えばいいのにね。なんかあるんだろうけどね。みんな喜ぶからやればいいのにね。カッコいい曲だしさ」と。そんな二人は、奇しくも2016年のFUJI ROCK FESTIVALの前夜祭で、解散したRamonesの曲で競演していた。(6:30くらい~)

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そして、解散したバンドの曲をソロライブで解禁し、挙句の果てに再結成……いや、再結集してしまった例もある。吉井和哉THE YELLOW MONKEYを自らの手で解散させた男は、ソロになってからも(けっこう早い段階から)「LOVE LOVE SHOW」や「JAM」を演奏していた。時には、元メンバー菊地英昭をギタリストとして従えて。THE YELLOW MONKEYのファンクラブ(Petticoat Lane)に入っていた私は、とても複雑な気持ちだった。家に届いた解散通知、笑顔の解散インタビュー、吉井の自伝での告白……そこにきて、過去楽曲の解禁。何度傷つける気だ。ソロライブで演奏したTHE YELLOW MONKEY楽曲のファン投票企画が発表された時にはさすがに絶句した。もう、再結成してくれよ、と思ったものである。何はともあれ、ソロ時代を無事に成仏させた吉井は、THE YELLOW MONKEYを再結集してくれたので、あのころ、私と同じく複雑な想いを抱いていたファンたちもようやく安心したのではないだろうか。

 

The Flipper's Guitar(2017年のフジロックに何かを期待した人が多かった模様……)、BOΦWY、JUDY AND MARYNUMBER GIRLSUPERCAR……解散後の楽曲演奏について比較すべきバンドはまだまだたくさんある。しかし、結論は出ないだろう。なぜなら、そもそも是非を決めることではないからだ。権利や契約、メンバー間での約束など当人たちしか分からない事情があるだろう。そこに介入はできない。もしそういった制限が無かったとしても、気持ちの問題が残っている。ただ、音楽ファンとして望むことは、解散したバンドの曲は無理してやらなくていいけど、やりたくなったらやってくれ、ということ。死んだらやれないんだから。